大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(ワ)8626号 判決 1992年1月23日

主文

一  被告は原告に対し、金五万三〇〇〇円及び右金員に対する平成元年一一月二五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その一を被告の各負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

理由

第一  原告の請求

被告は原告に対し、金一一万一〇〇〇円及び内金五万三〇〇〇円については平成元年一一月二五日から、内金五万八〇〇〇円については平成二年一一月二五日からそれぞれ支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

原告(旧商号株式会社香陵商事)は被告に対し、別紙物件目録記載の建物(本件建物)を賃貸していたが、昭和六三年一一月七日、左記内容で契約を更新した。

賃料 月五万三〇〇〇円

管理費 月六〇〇〇円

賃料及び管理費は、毎月二七日までに翌月分を支払う。

賃貸期間 昭和六三年一一月二五日から一年間

契約が更新された場合は、更新後の賃貸借期間は一年間とし、更新の際、被告は更新料として新賃料一か月分を原告に支払う。

二  争点

原告は、本件賃貸借契約は平成元年一一月二五日、賃料を月五万八〇〇〇円と改めたほかは、従前と同じ条件で合意更新され(合意の時期は平成二年二月)、平成二年一一月二五日さらに契約が更新されたと主張して、それぞれの更新における更新料の支払を被告に対し求めるものである。

これに対し、被告は、右更新の合意を否認したうえ、更新料支払の約定は借家法六条に違反する無効なものであり、そうでないとしても法定更新の場合は更新料支払義務はない旨主張するほか、平成元年一一月二五日付けの更新については原告が更新料の請求を放棄したと主張している。

従つて、本件の争点は、平成元年一一月二五日付けの更新の合意の有無、更新料支払い特約の効力、及び請求放棄の存否の三点である。

第二  当裁判所の判断

一  まず、平成元年一一月二五日付けの更新の合意については、これが成立したことを認めるに足る証拠はない(《証拠略》を総合すれば、原告代理人から被告に対して合意による更新の申入れがなされたが、合意が成立するに至らなかつた経過を窺うことができる。)。したがつて、本件賃貸借契約は、同日法定更新されたものと認めるべきであり、同日以降期間の定めのない契約になつたと解されるから、平成二年一一月二五日の更新はあり得ず、その更新料の支払を求める請求は理由がない。

原告は、最高裁の判例によつて法定更新後の契約が期間の定めのないものになるとされたのは、解約申入れのできる時期に関してであつて、更新料の支払義務に関しては、法定更新の場合も更新前の賃貸借期間の定めが適用されると主張するが、このようにいずれの面でも賃貸人に有利な便宜的解釈は、採用の余地がない。

二  借家契約における更新料支払の特約については、借家契約の内容や更新料の金額等によつては、その全部又は一部が無効となる場合があり得るとしても、本件においては、賃貸借期間は一年であるが、更新料の額は新賃料一月分であり、絶対額としてもそれほど高額とはいえず、賃料の補充ないし異議権放棄の対価の性質を有する更新料支払の特約として必ずしも不合理なものとはいえないから、本件特約は有効と認めるべきである。

また、法定更新の場合にも更新料支払の義務があるかどうかは、特約の内容にもよることであるが、昭和六三年一一月七日付けの本件賃貸借契約書においては、更新料支払を合意による更新の場合に限定しておらず、賃料の補充ないし異議権放棄の対価という本件更新料の性質から考えても法定更新の場合を除外するだけの理由はないから、本件の場合、法定更新の場合にも更新料支払の義務があると解すべきである。

三  被告は、原告が右更新料の支払を放棄したというが、その根拠とする乙第一号証は契約更新の申入れ文書であつて、「更新料はこれ以上求めない」との文言も、合意による更新内容の提案の一環をなすものと見るのが相当であり、確定的な請求放棄(免除)の意思表示をしたものということはできない。

四  よつて、原告の請求は、平成元年一一月二五日の更新に伴う更新料(金額は、法定更新のため従前の賃料額五万三〇〇〇円。支払期は、更新と同時と認められる。)の支払を求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 金築誠志)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例